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- 04/16 [PR]
- 12/27 9. 初めての水商売 その1
- 10/12 8. ゴローさん その3
- 10/11 7. ゴローさん その2
- 10/10 6. ゴローさん その1
- 10/07 5. 美代のその後
Title list of this page
実は貴子になる前、 ほんの数日 クラブで仕事をしたことがある。
大学2回生の夏のこと。
三宮を歩いていて スカウトされたのだ。
当時の私は 第三者からの見た目自己評価について
大きく勘違いしたものだが
若い子の場合 愛想とノリがよければ使い物にはなるのである。
クラブだった。
口座システムこそなかったが
同伴ノルマや 「おニュー・ディ」、 髪のセット等
いろんなきまりがあった。
バイトは それらを遵守しなくてもよかったが
いくつか 難しくないことを指導された。
ニットはダメだとか 爪は必ず塗るように 等々。
バイトは私の他に二人。
本職ホステス達は みんな 文字通り 「ぴかぴか」 だった。
私より 一つ年上だと言った一人でさえ
異質な世界のお姉さん という雰囲気。
そして接客が始まると 映画やTVでよく見る光景が展開されていた。
ほんまにお客さんのことを 「たーさん」 とか呼ぶんやぁ・・・
と、 どうでもいい所に気を取られているものの
初日は 笑っていることしか出来なかった。
結局 このクラブで過したのは 5日。
「うちのお客さんは 上品よ」 と 最初にママが言った通り
お客さんは ほとんどが紳士だった。
笑うだけだったのが
少しは会話に加わることができるようになったその5日目、
毎回 顔を合わせた一人のお客さん、 Y氏に
店が終わった後で、 と 誘われたのである。
◆◆◆ 目次 ◆◆◆
大学2回生の夏のこと。
三宮を歩いていて スカウトされたのだ。
当時の私は 第三者からの見た目自己評価について
大きく勘違いしたものだが
若い子の場合 愛想とノリがよければ使い物にはなるのである。
クラブだった。
口座システムこそなかったが
同伴ノルマや 「おニュー・ディ」、 髪のセット等
いろんなきまりがあった。
バイトは それらを遵守しなくてもよかったが
いくつか 難しくないことを指導された。
ニットはダメだとか 爪は必ず塗るように 等々。
バイトは私の他に二人。
本職ホステス達は みんな 文字通り 「ぴかぴか」 だった。
私より 一つ年上だと言った一人でさえ
異質な世界のお姉さん という雰囲気。
そして接客が始まると 映画やTVでよく見る光景が展開されていた。
ほんまにお客さんのことを 「たーさん」 とか呼ぶんやぁ・・・
と、 どうでもいい所に気を取られているものの
初日は 笑っていることしか出来なかった。
結局 このクラブで過したのは 5日。
「うちのお客さんは 上品よ」 と 最初にママが言った通り
お客さんは ほとんどが紳士だった。
笑うだけだったのが
少しは会話に加わることができるようになったその5日目、
毎回 顔を合わせた一人のお客さん、 Y氏に
店が終わった後で、 と 誘われたのである。
◆◆◆ 目次 ◆◆◆
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妙な感覚なのだが ゴローさんの股間を感じた時、
冷静になるのがわかった。
うわー、ヤりたくてめっちゃ必死・・・
力の続く限り暴れながら
やられちゃっても仕方ない状況よね、 と諦めもあったりして。
それでも 決め台詞は何にしようか考えてみる。
そうだ、 この人 プライドだけは高いんだった。
「オンナいないんですか?」
絶叫に近かったはずだが 効果はあった。
ゴローさんはさっと 身体を離し、 無言で
いつの間にかはずしていたベルトを締めた。
「時計、 いらないです」
それだけ言って 服の乱れを直すためにバスルームに逃げた。
オンナに不自由して モノと力で何とかしようとするオトコ。
百歩譲って 私に血迷ったのだとすると
そんな目で見られるのは 想像以上に屈辱なはずだ。
自称もてもてゴローさんだもの。
その後のゴローさんは とても紳士だった。
時計を返そうとすると モノで釣ろうとしたのではない、 と
がんとして受取らない。
電車で帰る、 と 申出ても
今日連れてきた自分が送るべきだ、 と 主張する。
そして帰り道は無言が続いた。
その頃には 私はすっかりゴローさんと会話しようという気がなく
ぼーっと窓の外を 何を見るでもなく眺めていた。
ゴローさんは
煙草のポイ捨てをとがめられたのが 恥ずかしかった とか
キミはこんな気詰まりな空気に耐えられないはずだ とか言っていたが
めんどくさそうな私の前では
それらはほとんど独り言と化していた。
「貴子、 キミは大人なのか子供なのか」
唐突にゴローさんが聞いた。
「どーなんでしょうね」 としか 答えなかった。
今なら答えることができる。
早く大人になりたい子供だったと。
ゴローさんの話は これで終了。
◆◆◆ 目次 ◆◆◆
冷静になるのがわかった。
うわー、ヤりたくてめっちゃ必死・・・
力の続く限り暴れながら
やられちゃっても仕方ない状況よね、 と諦めもあったりして。
それでも 決め台詞は何にしようか考えてみる。
そうだ、 この人 プライドだけは高いんだった。
「オンナいないんですか?」
絶叫に近かったはずだが 効果はあった。
ゴローさんはさっと 身体を離し、 無言で
いつの間にかはずしていたベルトを締めた。
「時計、 いらないです」
それだけ言って 服の乱れを直すためにバスルームに逃げた。
オンナに不自由して モノと力で何とかしようとするオトコ。
百歩譲って 私に血迷ったのだとすると
そんな目で見られるのは 想像以上に屈辱なはずだ。
自称もてもてゴローさんだもの。
その後のゴローさんは とても紳士だった。
時計を返そうとすると モノで釣ろうとしたのではない、 と
がんとして受取らない。
電車で帰る、 と 申出ても
今日連れてきた自分が送るべきだ、 と 主張する。
そして帰り道は無言が続いた。
その頃には 私はすっかりゴローさんと会話しようという気がなく
ぼーっと窓の外を 何を見るでもなく眺めていた。
ゴローさんは
煙草のポイ捨てをとがめられたのが 恥ずかしかった とか
キミはこんな気詰まりな空気に耐えられないはずだ とか言っていたが
めんどくさそうな私の前では
それらはほとんど独り言と化していた。
「貴子、 キミは大人なのか子供なのか」
唐突にゴローさんが聞いた。
「どーなんでしょうね」 としか 答えなかった。
今なら答えることができる。
早く大人になりたい子供だったと。
ゴローさんの話は これで終了。
◆◆◆ 目次 ◆◆◆
荷物もないのに 女性スタッフが 部屋まで案内してくれる。
第三者のいる場所で
ひと悶着ふっかけて 相手に恥をかかすことは
私の美学ではみっともないことなので
眉を吊り上げて ひとまず部屋に入る。
女性スタッフが出て行き
私が何かを言う前に
「そんな怖い顔しなさんな。 そういう目的で部屋取ったんじゃないよ」 と
呆れたように ゴローさんが言う。
「ここのルームサービスは 美味しいんやで。
琵琶湖見ながら 靴脱いで食事するのもええぞ」
そっか、 そういうものなのか。
さすがは天下の遊び人。
「ほな ちょっと上のラウンジで1杯飲もうや」
ちょっと肩の力も抜けたので 試すように笑顔を見せて
最上階のラウンジへ行く。
まだ 少し明るい時間だった。
警戒心丸出しの私の様子をからかわれながら
ラウンジでは 楽しい時間が過ぎていく。
緊張も解け、 部屋に戻り いくつかの料理を注文する。
「お腹空きましたー」 と 私。
「そうか、 ようさん食えよー」 と ゴローさん。
旅行でもないのに ホテルの部屋で食事をするのは
なかなかいいものだった。
少しお洒落をして 靴だけ脱いで。
暗くなった琵琶湖の向こう側に ちらちらと見える光も綺麗。
美味しい食事に 楽しい会話、 それらを後押しする心地いい酔い。
なのに やっぱり予感が当たってしまった。
食事が終わり ソファに腰掛けた私の横ぴったりにゴローさんが陣取る。
肩に手がかかる。
反射的に ソファから飛びのく。
「ごめんごめん」 と ゴローさんは立ち上がり
今度は 抱きついてくる。
「イヤです」 と 私が言った後
ゴローさんが何と言ったのかは 覚えていない。
何も言わなかったのかもしれない。
ゴローさんは 身長が180以上あり
何だったか忘れたが スポーツをしていてがっしりしている。
目の前にかぶさって来た時は 壁のようだった。
そのままベッドに転がされた。
ホテルの部屋というのは どこでどう争っても
結局 ベッドの上が戦場になるようだ。
ゴローさんの下でもがいている最中
私の足が ゴローさんの股間に触れた。
キンキンやん・・・
もー、 お若いのねぇ。
◆◆◆ 目次 ◆◆◆
第三者のいる場所で
ひと悶着ふっかけて 相手に恥をかかすことは
私の美学ではみっともないことなので
眉を吊り上げて ひとまず部屋に入る。
女性スタッフが出て行き
私が何かを言う前に
「そんな怖い顔しなさんな。 そういう目的で部屋取ったんじゃないよ」 と
呆れたように ゴローさんが言う。
「ここのルームサービスは 美味しいんやで。
琵琶湖見ながら 靴脱いで食事するのもええぞ」
そっか、 そういうものなのか。
さすがは天下の遊び人。
「ほな ちょっと上のラウンジで1杯飲もうや」
ちょっと肩の力も抜けたので 試すように笑顔を見せて
最上階のラウンジへ行く。
まだ 少し明るい時間だった。
警戒心丸出しの私の様子をからかわれながら
ラウンジでは 楽しい時間が過ぎていく。
緊張も解け、 部屋に戻り いくつかの料理を注文する。
「お腹空きましたー」 と 私。
「そうか、 ようさん食えよー」 と ゴローさん。
旅行でもないのに ホテルの部屋で食事をするのは
なかなかいいものだった。
少しお洒落をして 靴だけ脱いで。
暗くなった琵琶湖の向こう側に ちらちらと見える光も綺麗。
美味しい食事に 楽しい会話、 それらを後押しする心地いい酔い。
なのに やっぱり予感が当たってしまった。
食事が終わり ソファに腰掛けた私の横ぴったりにゴローさんが陣取る。
肩に手がかかる。
反射的に ソファから飛びのく。
「ごめんごめん」 と ゴローさんは立ち上がり
今度は 抱きついてくる。
「イヤです」 と 私が言った後
ゴローさんが何と言ったのかは 覚えていない。
何も言わなかったのかもしれない。
ゴローさんは 身長が180以上あり
何だったか忘れたが スポーツをしていてがっしりしている。
目の前にかぶさって来た時は 壁のようだった。
そのままベッドに転がされた。
ホテルの部屋というのは どこでどう争っても
結局 ベッドの上が戦場になるようだ。
ゴローさんの下でもがいている最中
私の足が ゴローさんの股間に触れた。
キンキンやん・・・
もー、 お若いのねぇ。
◆◆◆ 目次 ◆◆◆
貴子として働いていると タマには血迷ったお客さんにも会う。
水商売のオンナなのだから わざと誤解させるような言動を取るので
ある程度の地点までは 出来レースのようなものだが。
ゴローさんは 『粋に遊ぶ』を モットーとした人物。
着るものも これ見よがしなブランド&光物 ではなく
いいモノをさりげなく、 といったタイプで
とても清潔そうな印象だった。
話の内容も 明るい下ネタから宇宙の神秘まで幅広く、
すっかり興味深く聞き役になっていることも多かった。
そして同時に とてつもなく高いプライドが
ちらほらと見え隠れしていた。
こういうタイプのお客さんには
汚れキャラは ウケが悪い。
ポイントは 『知性』と 『育ちのよさ』である。
残念ながら どちらも いわゆる「ふつー」 ではあったが
はったりだけは得意な私は ゴローさんから合格点をいただいたらしい。
何度か 同伴をしていただき、
店の中では決して明かさない 私の素性の片鱗(当然嘘も含む)を見せていくと
ある日 店を休んでお出かけしましょう、 の誘いがかかった。
毎日 店に出ているわけでもないので
まぁいいや、 てな感じで。
・・・というより ゴローさんなら きっと素敵なところに
連れて行ってもらえるという期待感と
話をすること自体が 楽しみでもあったので。
待合せ場所から車に乗ろうとすると
助手席にリボンのかかった箱があった。
「時計なくしたって言ってたやろ?」
・・・嬉しさ半分、 イヤな予感が半分。
しかし後者は決して見せず 大喜びを装う。
箱の中身は ゴローさんが愛用している時計の女性用だった。
なんだか もっとイヤな予感。
ヒロになんて言おう、 と 頭の隅をよぎった。
車は高速道路に乗る。
行き先を聞いていなかったので 素朴に聞いてみると
「琵琶湖眺めながら食事でもしよう」
・・・何かあっても電車で帰れるわね。
それでも 車の中、 二人きりの空間でそれなりに会話がはずむ。
途中、 ヘヴィスモーカーでもないゴローさんが
煙草を吸い始めた。
そしてその吸殻を 窓の外に ぽいっと捨てた。
「ゴローさん、 それはダメですよ」
和気藹々とした会話を遮って 言ってしまった。
はっとして 一瞬口ごもったゴローさんは
「キミは本当に いい子だね」 と
顔をこちらに向けて 熱い視線を送ってくる。
運転中は 前 見て欲しい・・・
到着したのは大津プリンスホテルだった。
しかも 部屋取ってるやんか、 おっさん。
◆◆◆ 目次 ◆◆◆
水商売のオンナなのだから わざと誤解させるような言動を取るので
ある程度の地点までは 出来レースのようなものだが。
ゴローさんは 『粋に遊ぶ』を モットーとした人物。
着るものも これ見よがしなブランド&光物 ではなく
いいモノをさりげなく、 といったタイプで
とても清潔そうな印象だった。
話の内容も 明るい下ネタから宇宙の神秘まで幅広く、
すっかり興味深く聞き役になっていることも多かった。
そして同時に とてつもなく高いプライドが
ちらほらと見え隠れしていた。
こういうタイプのお客さんには
汚れキャラは ウケが悪い。
ポイントは 『知性』と 『育ちのよさ』である。
残念ながら どちらも いわゆる「ふつー」 ではあったが
はったりだけは得意な私は ゴローさんから合格点をいただいたらしい。
何度か 同伴をしていただき、
店の中では決して明かさない 私の素性の片鱗(当然嘘も含む)を見せていくと
ある日 店を休んでお出かけしましょう、 の誘いがかかった。
毎日 店に出ているわけでもないので
まぁいいや、 てな感じで。
・・・というより ゴローさんなら きっと素敵なところに
連れて行ってもらえるという期待感と
話をすること自体が 楽しみでもあったので。
待合せ場所から車に乗ろうとすると
助手席にリボンのかかった箱があった。
「時計なくしたって言ってたやろ?」
・・・嬉しさ半分、 イヤな予感が半分。
しかし後者は決して見せず 大喜びを装う。
箱の中身は ゴローさんが愛用している時計の女性用だった。
なんだか もっとイヤな予感。
ヒロになんて言おう、 と 頭の隅をよぎった。
車は高速道路に乗る。
行き先を聞いていなかったので 素朴に聞いてみると
「琵琶湖眺めながら食事でもしよう」
・・・何かあっても電車で帰れるわね。
それでも 車の中、 二人きりの空間でそれなりに会話がはずむ。
途中、 ヘヴィスモーカーでもないゴローさんが
煙草を吸い始めた。
そしてその吸殻を 窓の外に ぽいっと捨てた。
「ゴローさん、 それはダメですよ」
和気藹々とした会話を遮って 言ってしまった。
はっとして 一瞬口ごもったゴローさんは
「キミは本当に いい子だね」 と
顔をこちらに向けて 熱い視線を送ってくる。
運転中は 前 見て欲しい・・・
到着したのは大津プリンスホテルだった。
しかも 部屋取ってるやんか、 おっさん。
◆◆◆ 目次 ◆◆◆
久しぶりに店に出てきた美代は
私を別に避けるでもなかったが
決して馴れ馴れしい態度を取らず、
いかにも 「もう友達じゃないわ」 の態度。
さて、 他の女性達のいびりだが、
ある日 「おはよーございますー」 と店に入ってきた私に
誰も返事をしないのを見たママが
「あんたら いい加減にしなさいよ、 見苦しい」 と
一喝したのを境に なくなった。
きっと 他の女性達も 普通に接するきっかけを
なんとなく失っていたのだろう。
なので 美代も私も あえて二人で話をしなくても
他の女性達と 普通の会話をする状態で
美代の態度を ことさら気にすることもなかった。
だが ある日 一緒に食事をしたお客さんから
とんでもない申し出と 聞きたくない話を告げられてしまった。
楽しく食事をしていたのに
お酒をしこたま飲んだその人は
急に 店を休んで今日はつきあえ、 と言い出した。
お店に行きますー、 と 軽くあしらったつもりだが
彼は次に
「じゃぁ 何をプレゼントしたら1日つきあってくれる?」 と言った。
モノで釣ろうっての?
「美代ちゃんは そうしてる」
・・・え?
「自分ら(関西では 「自分=2人称」の場合が多々) 友達なんやし
タカちゃんも同じやろ?」
・・・・・
この人、 口説くつもりなら 明らかに手順を間違っているのだが
問題はそういうことではない。
その頃、 美代の持ち物が 派手になってきていたのは気付いていた。
その後 似たような話は 他のお客さんからも
聞くことになった。
そして 「友達だから 同類なんでしょ?」 のようなコトが付足される。
美代は 寂しんぼなので タマには
一時的に優しくしてくれる人になびくことも 予想していたが
そうしてまで モノが欲しかったのだろうか?
きっぱりと否定。
彼女は 実はお嬢なのだ。
そもそもバイトをしている、 というのが不思議なくらいの家柄なのだ。
美代は 自分がやっていることをわかっている。
元々 頭の悪い子ではない。
そして この話が 私の耳に入るように仕向けている。
参った。
美代は やがて 通うには不便だから、 と
大学の近くで一人暮らしをはじめる為に 店を辞めた。
やまちゃん経由で電話番号を知った私は 1度だけ電話したことがある。
「私がこうなったのは アナタのせいだとは言わないけど
アナタとは もう話したくないの」 と 彼女は言って電話を切った。
ヒロには 美代がしていたことは伝えていなかったけれど
月日が経ってから「最近 聞いたんやけど」 と 辛そうにぽつりと言った。
そんなことする子じゃないでしょ、 と とぼけておいた。
私たち二人の心を痛めつけるのも目的の一つなら
とりあえず一人分、 はずしておこう、 と。
◆◆◆ 目次 ◆◆◆
私を別に避けるでもなかったが
決して馴れ馴れしい態度を取らず、
いかにも 「もう友達じゃないわ」 の態度。
さて、 他の女性達のいびりだが、
ある日 「おはよーございますー」 と店に入ってきた私に
誰も返事をしないのを見たママが
「あんたら いい加減にしなさいよ、 見苦しい」 と
一喝したのを境に なくなった。
きっと 他の女性達も 普通に接するきっかけを
なんとなく失っていたのだろう。
なので 美代も私も あえて二人で話をしなくても
他の女性達と 普通の会話をする状態で
美代の態度を ことさら気にすることもなかった。
だが ある日 一緒に食事をしたお客さんから
とんでもない申し出と 聞きたくない話を告げられてしまった。
楽しく食事をしていたのに
お酒をしこたま飲んだその人は
急に 店を休んで今日はつきあえ、 と言い出した。
お店に行きますー、 と 軽くあしらったつもりだが
彼は次に
「じゃぁ 何をプレゼントしたら1日つきあってくれる?」 と言った。
モノで釣ろうっての?
「美代ちゃんは そうしてる」
・・・え?
「自分ら(関西では 「自分=2人称」の場合が多々) 友達なんやし
タカちゃんも同じやろ?」
・・・・・
この人、 口説くつもりなら 明らかに手順を間違っているのだが
問題はそういうことではない。
その頃、 美代の持ち物が 派手になってきていたのは気付いていた。
その後 似たような話は 他のお客さんからも
聞くことになった。
そして 「友達だから 同類なんでしょ?」 のようなコトが付足される。
美代は 寂しんぼなので タマには
一時的に優しくしてくれる人になびくことも 予想していたが
そうしてまで モノが欲しかったのだろうか?
きっぱりと否定。
彼女は 実はお嬢なのだ。
そもそもバイトをしている、 というのが不思議なくらいの家柄なのだ。
美代は 自分がやっていることをわかっている。
元々 頭の悪い子ではない。
そして この話が 私の耳に入るように仕向けている。
参った。
美代は やがて 通うには不便だから、 と
大学の近くで一人暮らしをはじめる為に 店を辞めた。
やまちゃん経由で電話番号を知った私は 1度だけ電話したことがある。
「私がこうなったのは アナタのせいだとは言わないけど
アナタとは もう話したくないの」 と 彼女は言って電話を切った。
ヒロには 美代がしていたことは伝えていなかったけれど
月日が経ってから「最近 聞いたんやけど」 と 辛そうにぽつりと言った。
そんなことする子じゃないでしょ、 と とぼけておいた。
私たち二人の心を痛めつけるのも目的の一つなら
とりあえず一人分、 はずしておこう、 と。
◆◆◆ 目次 ◆◆◆